2021年6月11日、キネマ旬報社より韓国翻訳エッセイが同時刊行された!
『あたしだけ何も起こらない』(ハン・ソルヒ著/藤田麗子訳)と『僕だって、大丈夫じゃない』(キム・シヨン著/岡崎暢子訳)の2冊だ。
『あたしだけ何も起こらない』については、すでに2本のレビューを投稿した。
今回は、『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』(韓国語版『괜찮아, 안죽어~오늘 하루도 기꺼이 버텨낸 나와 당신의 소생 기록 – 김시영』)についてご紹介する。
『大家さんと僕』の世界観にも通ずる「人情」
カラテカ矢部太郎さんも「笑いながらあたたかい涙がじんわり。人を癒すとき、その人もまた癒されている」と評する韓国翻訳エッセイ『僕だって、大丈夫じゃない』。
僕自身、同じマンションの下の階に住む93歳のおばあさんとは仲良し。
会うたびリンゴやお菓子をもらったり、煮しめを作って部屋まで持ってきてくれたり。
ときには2人でドライブしてカフェでお茶したりもする。
大家と店子という関係ではないけど、NHKアニメ『大家さんと僕』を見るたび、なんか似てるなって感じてる。
だから、『大家さんと僕』の著者・矢部太郎さん(カラテカ)も絶賛する『僕だって、大丈夫じゃない』を読むのが楽しみだった。
一読し終えて、そこに溢れていたのは『大家さんと僕』の世界観にも通ずる温かい「ふれあい」「人情」だ。
お婆さんたちは、医師の筆者に食べさせて上げようといろいろ持ち寄る。
たい焼き。
黒いビニール袋いっぱいの柿。
血圧30上がっても「熱いうちに食べさせたい」と走って持ってきたトウモロコシ。
ホワイトデーだからと「白い」牛乳1Lパック。
などなど・・・。
かわいいおばあさんたちの「情」が伝わってくる。
目頭が熱くなった『チヂミ』のお婆さんの話
もっとも目頭が熱くなったのが、『チヂミ』のお婆さんのお話だ。
幼稚園の孫のリュックサックに入れてチヂミを届けてくれる小柄なおばあさん。
ひと月に1、2回のペースで診療所を訪れるが、そのうちどちらかはチヂミの配達が目的だった。
そして季節はめぐり、筆者がふと思い出したころ訪ねてきたのは、おばあさんの息子と孫。
息子の言葉に、筆者は返す言葉さえ見つけられなかった・・・。
「長生きしてね!」(“오래 살어!”)
人生って、そんな出会いと別れの繰り返しだ。
だからこそ、本書の『挨拶』の話が切実に感じる。
診療所の待合室での2人のお婆さんの会話。
「お姉さん!」(“언니!”)
「うん?」(“응.”)
「長生きしてね!」(“오래 살어!”)
「うん、ありがとよ。あんたも長生きしろよ!」(“그래, 고마워. 동상도 오래 살어!”)
診療が始まり、2人の関係を尋ねる筆者。
「ご近所さんですか?」(“같은 동네 사세요?”)
「知らんよ、さっき初めて会ったから」(“몰러. 오늘 첨 봤어.”)
そしてお婆さんは、「院長も長生きしてね」と言って出ていった。(그러더니 ‘원장님도 오래 살어’라고 말하고 나간다.)
ときには永遠の別れとなるかもしれないと思いながら、僕が交わす言葉「それじゃ、またね」。
一方、「長生きしてね!」という挨拶には、“長生きしてればきっとまた会える!”という想いがこもっている。
うん、悪くないね。
ドラマを見終わったような読後感をぜひ!
これまで数多くの素晴らしい韓国小説・エッセイ翻訳書を僕たちに届けてきた名翻訳家・岡崎暢子さんが日本語に訳した『僕だって、大丈夫じゃない』。
あとがきで彼女はこう語る。
ドラマを見終わったような読後感。
しかも続きが気になるタイプの。
韓国の書店で本作の原著を見つけて少し読み始めたら、その温かな筆致にすぐさま目頭が熱くなった。
ああ、マズい。
これは買って家で読まないと・・・・。
ほんとうにその通り!
まだドラマ化されていないのが不思議なくらいだ。
他愛のない会話を楽しむために集う人情グルメドラマ『深夜食堂』(小林薫主演)を思い起こさせる。
“昼間のドクター版『深夜食堂』”とも呼べる、人情ドラマがそこにある。
あなたにも「ドラマを見終わったような読後感」をぜひ味わってほしい!!
書籍情報
発 行 : キネマ旬報社
発売日 : 2021年6月11日
著者:キム・シヨン
訳者:岡崎暢子
言 語 : 日本語
価 格:1,650円(税込)
★『第18回ハンミ随筆文学賞』優秀賞を受賞!
★ERと霊安室の間で緊迫した日常に追われていた韓国の医師キム・シヨンと、田舎町の病院で出会う人々との38の物語を収録。
★親戚との関係に思い悩む主婦、人生の岐路に立つ青年、今日1日を逞しく生きようとするやや我儘な年配者とのエピソードを、キム・シヨン自身の幼少期や過去を交差させながら綴っている。